大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和48年(行コ)48号 判決

控訴人(原告) 田山四郎 外四名

被控訴人(被告) 荻津正夫 外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人らは、「原判決を取消す。被控訴人らは茨城町に対し各金三三万三〇二六円及びこれに対する昭和四五年一月二八日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被控訴人らの負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、被控訴人らは、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次に附加訂正するほか、原判決事実摘示のとおり(ただし、原判決一一枚目表三行目及び末行の「田家七郎」の次に「(第一、二回)」を加える。)であるから、これを引用する。

(控訴人らの主張)

一  本件車庫工事のための予算は昭和四三年一二月一九日茨城町議会で議決されたが、茨城町は右予算の議決される前である同年一一月二三日頃被控訴人会社と本件車庫工事に関する契約を締結し、被控訴人荻津は同月三〇日頃被控訴人会社に対し本件車庫工事代金の内金三〇万円の支払いを承認し、右支払いが行われた。しかし、右契約の締結及び支払いは地方自治法第二一四条、第二三二条の三、第二三二条の五の各規定に反する違法なものである。

二  被控訴人会社が、本件車庫工事について、茨城町に提出した請求書(乙第五号証)には、坪単価二万円として総額約七〇万円になるようにするため、鉄骨について実際使用した量より水増した量を記載し、鉄骨の単価、加工賃としては当時の実績にのつとつた価格を記載したものであるから、その内容は事実と異なるものである。ところが、被控訴人荻津は、その記載内容が事実と異なることを知りながら、収入役に対し請求書記載の金額について支出を命じ、被控訴人会社はその支払いを受けたのである。このように、内容虚偽の請求書に基づいて支出を命じ、その支払いを受けたことはともに違法というべきである。そして、本件車庫の工事は直営であり、予算上も、賃金八万円、原材料費九〇万円、合計九八万円となつていることから明らかなように、直営を前提としたものであるから、茨城町と被控訴人会社との間に請負契約が締結されたと主張して前記請求書記載の金額を支出することを正当化することはできないというべきである。

三(一)  仮に、被控訴人会社と茨城町との間で本件車庫の工事について請負契約が締結されたとしても、本件車庫の鉄骨工事部分の請負価格に関する浅井鑑定人の鑑定には、次のような誤りがある。すなわち、右鑑定によると、(1) 水盛遣方費用六〇〇〇円、 (2) 熔接費用一三万〇八〇〇円、(3) 建方費用二万二四一三円、(4) 塗装費用四万三五六〇円、(5) 諸経費一二万六三一二円合計三二万九〇八五円が工事費の一部として計上されている。しかし、(1) 水盛遣方は仮設工事の内容であり、被控訴人会社が行つたものではなく、(2) 熔接は、工場における加工組立に含まれているもので、別個に請求できるものではなく、(3) 建方は茨城町の職員が行つたものであつて、被控訴人会社が行つたものではないから、建方費用のうち被控訴人会社がブルドーザーを使用して援助した費用として一万円だけを認めるべきであり、(4) 工事現場で塗装が行なわれた事実はなく、(5) 諸経費とは、元請業者(本件では茨城町がこれに当る。)が現場事務所の設置費、現場監督員の人件費、仮設資材の運送費、労災保険料等実際に要した費用を一括概算して計上するものであるが、本件において被控訴人会社はなんらこれらの費用を支出していない。

(二)  また、本件車庫の工事を設計した道口薫が参考にした土木衛生組合の車庫の工事見積書によると、右車庫は鉄骨九・〇七屯を使用し、屯当り一一万円であるところ、前記鑑定によると、本件車庫は屯当り約一六万八〇〇〇円であり、坪単価は土木衛生組合の車庫が一万四九〇〇円であるのに対し本件車庫は二万一一七五円である。したがつて、本件車庫の工事費は高額にすぎ、少なくとも前記(1)ないし(5)の費用の合計三一万九〇八五円(ただし、(3)の建方費用は、前記一万円を除いた一万二四一三円とする。)を前記鑑定による工事費用七五万七八七二円から控除した四三万八七八七円をもつて適正な請負代金とすべきであるから、茨城町は、前記鑑定に従つた場合でも、被控訴人会社に支払つた七〇万六一四〇円から四三万八七八七円を控除した二六万七三五三円の損害を受けたものというべきである。

(被控訴人らの主張)

一  控訴人らの主張一のうち茨城町が控訴人ら主張の頃被控訴人会社と控訴人ら主張の契約を締結したこと及び内金三〇万円を支払つたことは否認する。

二  控訴人らの主張二のうち被控訴人会社が茨城町に対し内容虚偽の請求書を提出したことは争う。

三  控訴人らの主張三の(一)の事実は争う。鑑定書中の水盛遣方とは鉄骨工事の水盛遣方を指し、仮設工事のものではなく、熔接は現場熔接とすべきものを鑑定書が誤まつて工場熔接としたのである。同(二)の事実のうち本件車庫の工事費用が高額にすぎるとの点は争う。控訴人ら主張の土木衛生組合の車庫の工事は本件車庫の工事より二年も前に実施されたものであるから、前者の坪単価を基準として後者の工事請負額の当否を論ずるのは相当でない。

(証拠関係)〈省略〉

理由

一  当裁判所も控訴人らの本件請求は理由がないものと判断するのであるが、その理由については、次に附加訂正するほか、原判決と同様であるから、その説示(原判決一一枚目裏八行目から二五枚目表三行目まで)を引用する。

1  原判決一二枚目表末行の「証人」の前に「原審」を、「七郎」の次に「(第一、二回)」を、同裏一行目の「被告」の前に「原審及び当審における」を、三行目の「この」の前に「成立に争いのない甲第一〇号証の記載、証人宇野博明、中込昇司、岩間乙治の各証言のうちこの認定に牴触する部分は、前掲各証拠に照らし、信用することができず、他に」を、一三枚目裏八行目の「九八万八、五〇〇円」の次に「(九九万〇五〇〇円の計算違いと思われる。)」を加え、一四枚目表七行目の「接衝」を「折衝」と改め、一六枚目表七行目から一一行目までを削除し、同裏九、一〇行目の「道口」を「田家」と、一七枚目裏一一行目の「防かつ」を「防あつ」と、一八枚目裏二行目の「前」を「後記」と、三行目の「七五万七八七二円」を「七四万五四五九円」とそれぞれ改める。

2  二一枚目裏一一行目「被告荻津の責任について考えるに、」を「被控訴人荻津の責任について検討する。被控訴人荻津が収入役に対し、本件車庫工事代金の前渡金として、金三〇万円の支出を命じた昭和四三年一一月三〇日当時、まだ同工事についての予算が成立していなかつたことは前記のとおりであるから、被控訴人荻津が右金員の支出を命じたことは違法であるというべきである。また、」と、二二枚目表四行目の「右契約」から五行目の「道口薫」までを「建設課長田家七郎」と、同八行目の「違法な請負」を「同」と改める。

3  二二枚目裏一行目から同一一行目までを次のとおり改める。「被控訴人会社の責任について検討する。前記認定のように、被控訴人会社代表者の代理人である鬼沢幸男は、本件車庫工事を引き受ける際、前記道口から説明を受け、同工事が形式上茨城町の直営工事として行われることになつていることを知つていたが、同工事と予算との関係についてまで了知していたことを認めるに足りる証拠はなく、地方公共団体と請負契約を締結する者が当該契約締結について公共団体の予算が成立しているかどうかを確認する義務があるとは解されない。また、被控訴人会社が本件車庫工事のため実際に使用した資材量及びその価格等に符合しない請求書を茨城町に提出し、これに基づいて請負代金七〇万六一四〇円の支払いを受けたことは前記認定のとおりであるが、右請求書を提出するに至つた経緯は前記説示のとおりであり、本件車庫工事のうち被控訴人会社が施行した鉄骨工事部分の当時における適正価額が七四万五四九五円であることは後記認定のとおりであるから、被控訴人会社の本件車庫工事請負契約の締結及び右請求書に基づく代金の受領は違法ではなく、被控訴人会社について不法行為の成立する余地はないものというべきである。」

二三枚目表二行目「違法な」を「違法に締結された」と改め、同四行目「ある」の次に「が」を加え、「から」から同五行目「しかし」までを削除する。

4  二三枚目裏四行目「れ、」から同七行目「よつて、」までを次のとおり改める。

「れる。ところで、当審証人鬼沢幸男の証言によれば、被控訴人会社は本件鉄骨工事について水盛遣方を施行し、熔接を行い、錆止塗装を行つたことが認められ、証人岩間乙治の証言のうち右認定に牴触する部分は信用することができない。また、右鬼沢幸男の証言及び被控訴人会社代表者尋問の結果によれば、本件鉄骨工事の建方の施行に当つたのは、主として茨城町の職員であり、被控訴人会社はそれを手伝つたにすぎないことが認められる。右認定の各事実及び鑑定人浅井新一の鑑定の結果を総合すれば、前記鉄骨工事部分の建方費用は控訴人ら主張のとおり一万円とするのが相当であり、その工事費用の適正価額は、建方費用の鑑定価格二万二四一三円から一万円を控除した残額一万二四一三円を右工事部分の鑑定価格七五万七八七二円から控除した残額七四万五四五九円とするのが相当であり、これを左右するに足りる証拠はない。

なお、証人中込昇司の証言により真正に成立したものと認められる乙第三三号証、右証言及び証人道口薫(当審第一回)の証言を総合すれば、茨城町土木衛生組合の車庫は七・二九トンの鋼材を使用したこと、その坪当り価格は約一万一八〇〇円であることが認められ、したがつて、その価格は本件車庫鉄骨工事の坪当り価格二万円より低額であることが明らかであるが、成立に争いのない甲第一一号証の二によれば、土木衛生組合の工事の施行時期は本件車庫のそれよりも二年も以前であることが認められる。そして、鉄骨工事の坪当り価格が当該構築物の建築時期及びその構造並びにその建物に使用した材料の品質によつて左右されるものであることは、社会通念に照らし、明らかであるから、本件車庫の鉄骨工事部分の坪当り単価が前記土木衛生組合の車庫のそれより高額であるからといつて、直ちに本件車庫の鉄骨工事部分の前記価額が適正でないといえないことは多言を要せずして明らかである。

以上のとおりであつて、茨城町は、本件車庫鉄骨工事部分を取得したことによつて、」

5  二四枚目表六行目「甲」とあるのを「乙」と改め、同七行目の「鬼沢幸男」の次に「(原審)」を加え、二五枚目表二行目「一斑をもつて全豹を論じ」を、三行目「なるということに」をそれぞれ削除し、「ならない」の次に「というべきである。」を加える。

二  以上述べたところによれば、控訴人らの請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九五条、第八九条、第九三条第一項本文を各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 枡田文郎 福間佐昭 山田忠治)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例